日本のInsurTechの可能性

元生命保険会社総合職で現在ベンチャー投資に携わる者として、生命保険会社でイノベーションが起こることをいつも期待している。

保険×ITで「InsurTech(インシュアテック)」という言葉が少しずつ浸透して来ており、海外では下記のニュースも出てきている。

zuuonline.com

記事内では、生保、損保混合のランキングが書かれていて一位は米Oscarだ。

Oscarについては、GCPキャピタリストをされている湯浅エムレ氏の記事が詳しい。

www.emreyuasa.com

まず生保と損保だと、InsurTechは損保で発生しやすいように感じる。物を取り扱う損保ではIoTなどネットと繋がることが容易だからだ。一方、生保は人の生命に保険をかけているためネットと繋がることが難しいと考える。Oscarは医療保険を提供する会社だが、ただ保険商品を提供するだけでなく保険契約者の健康維持に積極的に携わることだ。契約者であれば、Oscarが提携するドクターにアクセスすることができる。つまり、保険商品だけでなく付加価値を提供することで差別化を図っている。

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生命保険会社は、主に死差益、利差益、費差益を利益の源泉としており、ゼロ金利時代の中、死差益が重要な要素となっている。契約者が健康であり続け、生命保険会社が保険金を支払わない状況になればそれがそのまま利益となる(現実には責任準備金の計上があるため一概には言えないが)。つまり、Oscarは、うちの保険に入れば健康になりますよ、と現在日本国内の生保営業と180度違うことをしている。世界との差は明らかだ。

一方、日本国内でInsurTechの第一人者と私が勝手に考えている増島先生の記事を見ると大企業だけでなくスタートアップ側にも問題があると指摘している。

japan.zdnet.com

これまで5年ほど、銀行・証券業界で日本にFinTechの流れを作り出すための支援をしてきた経験から言うと、日本のInsurTechにおける真の課題は、これを担うスタートアップ企業がなかなか出てこないことにある。その要因は大きく分けて2つある。

 第1は人材面の要因である。InsurTechに取り組むためには、データ収集や分析に関する深い知見を持つエンジニア人材と、保険業というビジネスに対する深い知見を持つビジネス人材の組み合わせが不可欠だ。人材の流動性の高いエンジニア人材は、自らのスキルを用いれば、非効率な保険ビジネスを大きく変えることができるのではないかと目論むことはできるが、保険実務を知らないので、それが絵空事なのかどうか、それを行うために必要な規制の変更が現実的なものなのかどうかを見積もることができない。

 これに対して、日本の保険領域のビジネス人材は、概して保守的な傾向が強い。証券業界の人材のように、機を見てスタートアップ市場に打って出るという人材を見出すことが難しい。独立するとしても、すぐに売り上げが立つ保険募集ビジネスまわりに集中してしまい、売り上げゼロの期間を経てスケールする基盤を作り出すスタートアップ型のビジネスモデルに手を出す人材は極めて少ない。人材のマッチングのむずかしさが、日本のInsurTechスタートアップの立ち上がりが鈍い理由の大きな原因を占めているのである。

 私の肌感覚では、生保社内では「営業現場が正義」みたいなところがあると思う。最も人材、資金が豊富な日本生命でもそうだ。管理部門に配属されたら、「あの人は営業が出来ない」みたいな風潮もある。そんな社内で「こうすれば営業部門を効率化出来る」

と言おうものなら営業職員、現場から非難轟々だ。ここにもまだ深い問題があると考える。現在の日本では、ライフネット生命がInsurTechみたいな感じに思える。一刻も早く生保業界を変えてくれるスタートアップの登場を待つばかりだ。